「台所から社会を変えたい」
千恵の乳がんが発症した2000年7月。
手術直前まで、僕たちは旅行や映画、コンサートなどに出かけた。
夜、眠れなくなることがないように。体がヘトヘトになるまで楽しんだ。
乳がんの不安を少しでも薄める狙いがあった。
千恵のために。
そう考えて計画を立てたつもりだったが、今思えば、実は僕自身の不安を薄めるためでもあったような気がする。
忘れられない旅行がある。
自家製の野菜料理でもてなす大分県湯布院の小さな旅館に宿泊した翌朝の出来事だった。
旅館を経営する男性と農作物についての雑談をしているとき、彼がぽつりと、ある言葉をつぶやいた。
2001年、僕たちは結婚した。
千恵は、はなを出産した後、「私、台所から社会を変えたい」と言い始めた。
男性の言葉は、千恵の脳裏にずっと焼き付いていた。
以下、千恵が、その言葉を振り返ったブログ。
春の便り(2007年3月4日)
今日、娘と一緒に久しぶりに糸島市の酵素風呂へ行った帰り道、田んぼのあぜ道で腰を低くして動いている人たちを発見。
「ツクシ取りしてるよ!」
食べ物に関してだけは、嗅覚が鋭い私。
車を急停止させてあぜ道に寄せ、その人たちに混じって、ツクシ取りに参加しました。
あぜ道を見ると、あるある。
たくさんのツクシや野草が顔を出しています。
娘も、春の花々に歓喜の声を上げて、お花摘みに夢中。
今年は暖かくなるのが早かったからか、ツクシは頭の開いたものが多くなっていました。
春の草花は、ほとんどが食べられるものばかり。
セリ、ナズナ、ツクシ、フキノトウ、タンポポ、菜の花、ヨモギなど。
でも、セリやワラビに関しては、毒の含まれるものもあるので、初心者は野草に詳しい人と出かけたほうが無難。ついでに言うと、山奥はともかく、田んぼのあぜ道にある草花は、道の手前よりも奥に咲いているものを取った方がいい。犬のおしっこがかかっている可能性があるから。
それと、自分たちが食べきれる分だけを摘むのがルール。
次に取りに来る人の分も欲張って摘み取ってしまい、結局食べきれないで捨てるなんて、自然の神様からお叱りを受けます。
春の草花は、冬の間、寒さで縮こまっていた身体を目覚めさせる役割を担っているのだ。
だから春は、苦味がある草花を食べておくと、元気で過ごすことができる。
寿命が延びる、とも言われる。
春は苦味のある野菜で身体を目覚めさせ。
夏は身体を冷やすトマト、キュウリ、ナス、スイカを食べて夏バテを防ぎ。
秋は寒さに向けてイモ、サンマ、栗などを食べて体力をつけ。
冬は土の下に眠っているゴボウ、ダイコン、ニンジン、レンコンで身体を温める。
日本は、昔から四季折々、旬の物を食べる食文化で身体を病から守ってきた。
ハウス栽培が発達して、トマトもキュウリも年中食べられる。
スーパーに行くと、365日同じ野菜や果物が並ぶ。冬なのか夏なのかわからない。
大分県由布市湯布院町で自給自足をしながら小さな旅館を営むおじさんは言った。
「冬のトマトは、石油を食っているようなもんだ」
ハウス栽培は、石油などの資源を膨大に使っている。
消費者が求める限り、生産者は作らざるを得ないのだけれど、もっともっと学ぶ消費者が増え、環境に優しい農業を共に目指していくのも、今後の私たちの課題だ。
今晩の夕食は、ツクシとセリのみそ汁、玄米、ワカメの酢の物、高野豆腐とレンコンのハンバーグ(ニンジン、ヒジキ、木綿豆腐、タマネギ、そば粉入り)。
ハンバーグは、娘がこねこねと形作りを担当しました。