雑談には本音があふれている
ルポライターかと思った。
千恵のことである。
僕の話は右から左に聞き流し、ほとんど覚えてないのに。他人の会話は耳ダンボで聞き、文字起こしまでやっていた。しかも、メモを取っていたとしか思えないほどの正確さで。
雑談や立ち話の中には、市井の人々の本当の気持ちがあふれている。
千恵は気づいてなかったと思うが、取材を仕事としている僕には分かる。
乳がん患者の場合ならば、患者を取り巻く環境が伝わってくる。面と向かったインタビューでは聞き出しにくい患者の正直な不安や葛藤など、本音の言葉が並ぶ。どこかで耳にする公式見解ではない。
ルポライターというより、盗み聞きブロガーだろうか。
もっと、活躍してほしかった。
以下、盗み聞きブロガーの作品。
がん談義(2007年4月25日)
今日は、午前中から病院通いでした。午後は前原へ。
爆音でショパンのピアノコンチェルトなど聴きつつ運転。
病院通いとは言っても、治療ではありません。
7月まで行かなくていいので、2カ月分の湿布を処方してもらいに行っただけなんです。
病院での待ち時間って、聞くつもりはなくても他人の会話は耳に入ってくるものです。
いや~しかし、今日の会話は久々のヒットでした。
以下、おばちゃまたち3人組(多分、見た感じ50代半ば)の会話をお楽しみください。
独り言のように・・・ 。赤青緑がおばちゃんの声。
「あんたくさ、この前入院したらくさ、み~んな元気がなくて、はげとうやないね。もう、どうしようもないて思うてからくさ。あんた、はげたら外にも出られんやないね」
そりゃ、がん患者が入院してたら元気はなかろう・・・はげもおろう・・・。
奥の方にいた帽子をかぶったおばちゃん、すかさず。
「なんば言いようとね。あーた、帽子があろうもん。かつらだってあるし。ねえ」
「そうよそうよ」
どうやら、長年の友達のように見えたこの3人。
今日、待合室でたまたま居合わせただけのようです。さすが。
会話には参加してないけど、はげ会長の私としては、思いきり心の中で叫びました。
「そうだそうだー! 何ば、いいようとねー! はげが外出できんかったら、その辺をうろうろしとるはげたおっちゃんらはどうなるとね~。はげにも権利はあるぞ~!」
「・・・まあ、そうやね。そういえば、あたしゃ帽子はすかんかったばってん、治療中、紫外線浴びたらいかんっち言われたけん、最近帽子ばかぶるごとなったっんやった」
そのくらい、覚えててください。
「そうやろう? そうよ。かぶりなさいよ。ところであなた、術後の治療は何もしとらんとね?」
「抗がん剤はしとらん」
「じゃあ、ホルモン剤は?」
「うんにゃ、なーんもしとらん。あ、いや、やっぱりしとった。ホルモン剤ば」
それも、しっかり覚えててください。
「あーた、副作用はないとね?」
「なーんもなか。どげんもなか」
どうやら、この赤のおばちゃんは、不感症のようです。いいなあ。私は、ホルモン治療の時も苦しかったよ・・・。
「それよりこのホルモン剤の高かこと。いっつも2万5千円くらい取られるばい。この前はくさ、何か知らんばってん4万5千円もしたったい。だけん、いっつも家中の金ばかき集めてからここに来ると」
それは、大体、ゾラかタモか・・・。閉経後だったら、アリミデックスかな・・・。薬の名前がすらすら出てくる自分が悲しい。いつの間にか、はげ談義からお金の話に変わったみたいです・・・。続けましょう。
「ええっ!ホルモン剤で4万5千円もするとね。抗がん剤と変わらんねえ。高かよねえ。わたしなんか、去年ここに100万円は払っとうよ。でさあ、高額医療か? いや、確定申告ばしたらさ、4万ちょっとしか戻ってこんかったとよ。100万払って4万よ。あほらしかねえ」
「そうよね、あなた、私もよ。退職金は、ここに全部つぎ込んでいるようなもんよ。せっかく一生懸命働いてきたのに・・・」
「そうくさ。働いた分ぜーんぶ取られるとよ。まあ、米は実家で作りよるし、野菜は自分で作りよるけん、何とか生活はしていけるけどくさ」
ふんふん。なるほど。
と、ここで「安武さーん」と看護師さんから呼ばれたから、この後の会話は聞いていません。
そこで、
今日のまとめ。
その1
はげにも権利はある。
その2
何度も言うようですが、がんにはお金がかかる。
その3
いざとなったら、自給自足。
特に、その3に賛同し、帰路につきました。
それでは、また。