はなちゃんのみそ汁 番外篇

亡き妻のブログ「早寝早起き玄米生活」アーカイブから

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そこにいるだけでいい

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何に不満があるんだ

大切な人がそこにいる。
生きている。
そこにいるだけでいい。
何に不満があるんだ。
それだけで十分じゃないか。
そんなことを気づかせてくれた妻のブログ。
15年前、職場でこっそり読んで、涙が止まらなかったことを思い出した。
 
千恵は口には出さなかったが、このブログには、「信ちゃんがつらいのも、ちゃんとわかっとるからね」という僕へのメッセージも含まれている。
 
 
そこにいるだけで良いということ(2007年7月31日)
 
がんの患者さんや、そのご家族から相談を受ける機会が多くなった。
 
なぜだかは、わからない。
けれど、それが私に与えられた役割だとしたら?
 
がんになった後、いろいろな波を越えてここまでやってきた。
今までやってきたことが全て無駄になったような気分になり。
生き方を完全否定されたような気分も味わい。
仕事を失い、社会から排除されたような敗北感も味わい。
 
落ち込んだことも、鬱になったこともある。
死をはっきりと意識したことも、きつい治療が続き、
正直「もういいや・・・」と思ったことも。
生きるモチベーションが下がったこともある。
 
今後、どんな試練が待ち受けているのかは、わからない。
不安はないのかと問われたら、ないとは言えない。
 
でもそれは、「大きな地震がきたらどうしよう」と思うのと一緒で。
わからない先のことを今考えてもわからないし。
その時に考えることにしようと思っている。
 
そんな中、私を励みにしてくれている人が、少なからずいらっしゃるということがわかった。
 
私にも、生きている意味がちゃんとあるのだと思う瞬間でもあり。
 
何にもできない小さな人間だけど、「よし、私もがんばろ」とも思う瞬間でもあり。
 
 
いまだに、この世に産まれてきた意味はよくわからないのですが(きっと、誰もが、死ぬまでよくわからないのでしょうけれど)、もし、それが私の役割だとしたら、ありがたく受け入れてみようと思っている。
 
 
そんな中、告知を受けたばかりの同年代の方からお電話をいただいた。
 
まだ告知を受けてからひと月もたっていない方だ。
 
このひと月の間に、告知、入院、手術、治療方針決め・・・。
盛りだくさんだ。
 
事実はわかっていても、ココロがついていけない。
 
でも、決めないといけない。
 
私も、7年前のこの時期だった。
告知、入院、手術、抗がん剤治療と、短期間に押し寄せてきた。
 
何とも言えない日々だった。
 
告知から1~2年が、一番つらい時期だ。
 
 
怒濤のように、わけのわからない事実が次々と判明する。
画像を見せられても、本当に自分の体に起こっているできごとなのか。
理解するのに時間がかかる。
 
「なぜ自分だけが、こんなにつらい思いをしなければいけないのか?」
自分だけが取り残されたような、何とも言えない気持ち。
 
電話口で、泣いていらっしゃるのがわかる。
 
何も言えない。
 
でも、あなたは一人ではないということを、短い時間だったけど、必死でお伝えした。
 
がんになった場所は違うけれど、告知を受けた時の想いと、体の一部を失ったつらさは共有できる。
 
がんによって、いや、個人によって治療方法は全く異なってくるけれど、化学治療のつらさは理解できる。
 
 
「一緒にがんばりましょう」と。
 
最後は、この一言に尽きた。
 
 
あなたは、そこにいるだけでいい。
目の前に壁がたくさん立ちはだかりますが、一つ一つクリアにして、乗り越えていきましょう。
 
 
そうして、忘れがちになるのですが、一番大事なこと。
 
がんになった本人が一番つらいと思われがちですが。
 
あなたの周りにいる大切な人々も、同じくらいつらい。
 
あなたが「死」の恐怖を味わっている間、あなたの大切な人も、あなたを失うという、出口のない泥沼から抜け出すことができないのです。
 
 
それは、地獄、です。
 
 
だから、何もしなくてもいいから。
あなたが、そこにいるだけでいいのです。
 
笑顔を取り戻すのには、まだまだ時間がかかるでしょう。
 
薬を使うと、今までに味わったことのないような感情の起伏と鬱を体験し、涙も多くなるでしょう。
 
「もう、きつい。もう、いいや」
人生をあきらめたくなる時も、多々おとずれるでしょう。
 
でも、あなたがあきらめた時、あなたの大切な人も、人生の大きな意味を失うのです。
 
その敗北感たるは、言葉では書けません。
 
一生自分を責め、苦しむと思うのです。
 
 
「がん」が授かり物だと思えるまでには、まだまだ時間がかかりますが。
 
でも、きっと、やってくるから。
 
一人じゃないから。
 
 
いっしょに、がんばろ。
 
会いに行くから。
 
いっしょに、がんばろ。
 

2007年7月28日撮影

 

 

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