ホルモン療法の副作用
千恵が、ホルモン療法を継続しているころ、僕は、時々、会社で胸騒ぎがした。
昼休み、彼女の様子を見に自宅に戻ることがあった。
自宅はマンションの12階。
カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中に千恵はいた。
窓際にひざを抱えて座っていた。
10センチ横にずれたら、命を失う。
しかし、ホルモン療法にもさまざまな副作用があり、日常生活に支障をきたすほど苦しんでいる人も少なくない。
ほてりや発汗などのホットフラッシュがあり、1日に何度も着替えるほど汗をかく。
手指のこわばりや関節痛もひどく、包丁を握るどころか、洗濯ばさみで洗濯物を挟むこともままならない。疲れやすく、だるさも激しいため、日中も横にならずにいられない。
さらにイライラもこうじてくる。千恵は鬱(うつ)に苦しんだ。
外見は普通に見えるだけに、周囲は「元気そうだね」「頑張ってね」などと声をかける。
体の不調に加え、周囲の理解がないと心までつらくなっていく。
善意のつもりの一言も、実は患者を追い詰めることにつながってしまうのだ。
頑張っても頑張っても、結果が出ないときに(2008年3月9日)
私の周りには、がんの治療で闘っている方がたくさんいる。
その方々は、日々、頑張っている。
「頑張っている」って、日本独特の言葉だけれど、
私は「頑張る」以外に、うまい言葉を見いだすことが、いまだにできないでいる。
私に対しても、たくさんの方が「頑張ってね」と声をかけてくださるし、
私自身も頑張っている方に対して、
やっぱり、「頑張ってね」と言うことしかできないときが、多々あったりする。
でも、頑張って頑張って、これでもかというくらいに頑張っているのに、
結果が出ない方に対して、私はどのように声をかけたらよいのか、本当にわからないのだ。
がんの治療は長く、つらい戦い。
結果が出れば、うれしいし、前向きにもなれるだろう。
数値だけに頼ることはしてないつもりでも、
腫瘍マーカーがほんのちょっと下がっただけでも、やっぱり、うれしい。
でも、結果が出なければ、なかなか前向きになれない。
その闇から抜け出すために、どんな努力をしたらよいものか。
わからないことだらけだ。
だから、サイコオンコロジー
があるのだけれど。
がんになった後に、鬱病になる人は本当に多いのだ。
理解できる。
自分が通った道だから。
特に、ホルモン治療をしているときは、
ビルの上から飛び降りる人の気持ちが、ちょっとわかってしまうくらいの躁鬱状態だった。
主治医の顔を見るだけで泣けたし、ちょっとしたことでイライラして、
ムスメに当たったりしていた。
そんな自分が歯がゆくて、悔しくて・・また泣けた。
診察のたびに泣く私を見て、主治医は言った。
「それは、あなたが悪いんじゃなくって、薬の作用ですからね。つらいでしょうね。
涙も、気持ちがアップダウンするのも、すべて薬のせいですよ」と。
その言葉に、どれだけ救われたかわからない。
抗がん剤は、脱毛、嘔吐と身体に出る作用が大きいのでつらいけれど、
ホルモン治療は精神も病むので、つらいのだ。
両方通らないと、わからなかったことだ。
とにもかくにも、闇から抜け出す方法があるのならば教えてほしい。
私は、闇から抜け出すときに、家族の存在が救いになった。
両親が、大学時代の恩師夫妻が、闇の中から助け出してくれた。
たくさんの友人が、闇から引きあげてくれた。
彼らがいなかったら、私は今、ここにいないだろう。
つい最近、聞かれた。
「苦しいとき、どのように立ち直ってきたんですか?」
・・・わからない。覚えていない。
その時々、一生懸命だったからなのか?
それとも、人間は、つらいことを忘れるようになっているのか?
けれど、やっぱり、人の力をたくさん借りたことだけは確か。
2年前に亡くなった、なおみんさん。
亡くなる直前、彼女が「口から物を食べることができなくなったんよ。歩くことができなくなっちゃった。このことは、千恵ちゃんにしか言えないのよ」と、儚く笑ったとき。
私は彼女に迷わずこの本を贈った。
彼女は笑ってくれた。
「あまりにおかしくて、笑い転げたよ~」と返事がきた。
それが最後のやり取りだったけど。
私は、あの本を彼女に贈ったことを後悔していない。
つらいことが多いけど、毎日一回でもいいから、笑っていけたらいいね。
あなたが笑うために、私ができることって少ないけれど、
今度会うときに「顔マネ」贈るけん。
元気でおらんばよ。
「ここ」パワーで元気になあれ ♪
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