郡山サロン
菊池医院(福島県郡山市)での講演は、持ち時間を20分もオーバーしてしまった。
講師としては失格。
だが、食い入るようにスクリーンを見つめ、一言も聞き逃すまいとする聴講者の姿勢が、僕をそうさせた。
最後に1人の女性から質問をいただいた。
「お母さんが亡くなったとき、はなちゃんは死の意味を理解していたのでしょうか」
当時、娘は5歳。
たぶん、わかってなかっただろう。
ただ、初七日、四十九日、一周忌と節目の法事を含め、わが家に集まる大人たちの話を横で聞きながら、「もうママは帰って来ない」ということを理解していったように思う。
女性の質問の真意は何だったのだろうか。
懇親会の席で、主催者の菊池医師に尋ねてみた。
「ああ、あの質問をしたのは、僕の妻です」
なるほど、と思った。
東日本大震災の被災者の中には、両親を一瞬のうちに亡くしてしまった幼い子どもたちがいた。そんな子どもたちの心のケアに取り組む菊池医院の関係者だからこそ、知りたかった子どもの胸の内だったのかもしれない。
懇親会の後、菊池先生と歩きながらにホテルに戻った。
こうして、ご縁をいただいたこと。
これからのこと。
東北の夜空を見上げながら、いろいろと話した。
菊池先生は、6年前に東京での小児科学会で出会った喜びを何度も語られた。
こちらこそ、先生との出会いに感謝している。
住まいは福岡市と郡山市。
頻繁に会うのは難しいかもしれないが、一生のお付き合いができる仲間に出会えたことが何よりもうれしい。
菊池先生が定期的に主催している講演イベントの名称は「郡山サロン」。
研修会、セミナーのような一方通行的な勉強会ではなく、社交場や語り場を意味するサロンがいい。18世紀末のフランス革命の時代も、サロンは各地で開かれ、革命勢力各派の拠点となった。
世の中をより良い方向に変えるためは、地域にサロンが必要なのだ。
菊池先生の志とセンスの良さを感じる。