手紙で近況報告
前略
千恵さま
みぞれまじりの雨が降る寒い朝。
はなが熱を出したので、先ほど、卵がゆを食べさせたところ。
大学の定期試験を終え、ほっとしたんやろうね。
でも、よく頑張ったよ。
卒業まで、あと1年を残し、必要な単位をすべて取ったらしい。
目指していた「フードスペシャリスト」の資格試験も合格。さすが、君の子やね。
きょうは、特別な日。
だから、いつもより長く祈った。
遺影の君は、永遠に33歳。
僕は白髪が増えたけど、サラリーマン時代よりも体調はいい。フリーランスに転向後、しがらみがなくなり、ストレスフリーだからね。
運命をのろい、酒に溺れる日々もあったけど、もう、ご心配なく。
悲しみを同居させながら「いのち」をテーマに執筆を続けてきたこと。そしてなにより、千恵が産んでくれた娘の成長が、生きる糧になった。
はなに「きょうは何の日か知っている?」と聞いてみた。
すぐに答えてくれた。
そうだよね。忘れるわけないか。
年に一度の特別な日。
夕食は陰膳も用意するから、家族3人でお祝いしようね。
ハッピーバースデー。千恵。
49回目の誕生日おめでとう。
安武千恵(やすたけ・ちえ)
1975年1月28日、長崎県大村市で生まれる。福岡教育大学大学院修了後、音楽教師として明治学園(北九州市)に勤務。がん闘病中の2003年2月20日、長女はなを出産。はなが4歳の誕生日を迎えた日から亡くなる直前までの1年3カ月、みそ汁の作り方など料理を教えた。2008年7月11日、逝去。
9年前、友人家族から送られてきた誕生祝いの動画。何度見てもじわーっと泣けてくる。
どちらさまも、下のボタンをうっかりクリック。