博多どんたくの夜
遠くから、にぎやかな音楽とアナウンスが聞こえてきた。窓の外に目を向けると、花自動車が走っていた。「博多どんたく港まつり」が始まった。
娘と彼氏のねすたに声をかけ、一緒に外を見た。
「きょう、ねすたと博多どんたくに行くんだけど、パパも合流する?」。最近、娘は自分たちのデートにパパを誘ってくれる。
もちろん「YES」。親子で「どんたく」に行くのは、何年ぶりだろうか。
夕方、どんたくの本舞台がある福岡市役所前広場で待ち合わせ。3人で人混みをぶらぶら歩きながら、途中、パチンコ店で時間をつぶし、祇園町のラーメン居酒屋に入った。
食事中、ねすたが娘にこんな質問をした。
「はなちゃん、涙が出るほどの料理を食べたことある?」。恐らく、ねすたは、それほどおいしい料理に巡り合ったことがあるか、と聞きたかったのだろう。だが、娘の答えは少しニュアンスが違っていた。
「あるよ。5年前、高校2年の秋だったかな。パパが久しぶりに作った手羽大根を食べて、涙がポロポロこぼれた。私が幼いころ、ママがよく作ってくれた料理だってことを思い出して。舌の記憶ってすごいよね」
ねすたは驚いたような表情で娘の話に耳を傾けた。そして、ポツリとつぶやいた。
「はなちゃんのママに会いたかったな」
考えたこともなかった。妻が生きていたら、ねすたにどんなふうに接し、どんな言葉をかけただろうか。
娘が目に涙を浮かべながら「きっと、玄米おにぎりを食べさせたやろうね」と言った。
亡き妻を偲ぶ。以前は、世間がにぎやかなときほど、つらくなることが多かったが、今は幸せな時間に感じられるようになった。近く、ねすたにとっておきの玄米おにぎりを食べさせてあげようと思う。
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