二者択一
抗がん剤の副作用で、子どもは無理といわれながらの奇跡的な妊娠。
だが実は、千恵は妊娠を望んでなかった。
がん患者にとって出産はリスクが高い。エストロゲンという女性ホルモンが卵巣から活発に出始めることで、がんが再発する可能性がある。文字どおり、命がけの覚悟をしなければならない。
千恵はブログに、そのときの心境をこう綴っている。
遊びをせんとや産まれけむ(2007年12月14日)
乳がん、子宮がんという女性特有の病の後に出産する人は、正直、そうそういないようです。
大抵、手術の後は治療に入りますので、女性ホルモンを抑制するために、生理を止めなければならないのです。
治療薬によって、止まってしまう場合も多々あります。年齢が高ければ、そのまま閉経してしまうことも珍しくありません。
また、再発・転移の心配も、ずっとつきまといます。
出産の決意は、「死」をも伴う覚悟です。
千恵は中絶を口にした。僕に「私が再発してもいいの。抗がん剤の影響で子どもに後遺症が残ってもいいの」と迫った。
二者択一しかなかった。僕たちはもがき、苦しんだ。
2002年6月26日、2人で総合病院の産婦人科を訪れた。妊娠7週目だった。
エコーで胎児がモニター画面に映し出された。手があり、足があった。ドクッドクッと力強い心音も聞こえた。千恵の目から涙がこぼれた。
それは喜びの涙ではなかった。
(続く)
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