刺身の食べ方
19歳男子は刺身が好き。
ならば、うまい魚を食べさせてやろう。
吹雪の中、娘と男子を連れて近所の居酒屋に向かった。
サッポロ黒ラベルを飲みながら、待つこと10分。
刺身の盛り合わせが運ばれてきた。
ヒラメ、マグロ、イカ、赤貝・・・。
19歳男子のうれしそうな顔。
こっちまで、うれしくなる。
19歳男子が、しょうゆの入った小皿にワサビを入れたところで・・・。
「ちょっと待った!!」
いいかい。ワサビっていうのはなあ。
刺身にちょこっと乗っけて食うのが粋ってものさ。
しかも、すりおろした本山葵だよ。
マナー違反ってわけじゃないけど、
しょうゆに混ぜてしまっちゃあ、香りや辛みも台無しじゃねーか。
わかったかい。やってみな(なぜか、東京弁)。
その作法に従って刺身を食べた19歳男子。
「ほんとだ。ワサビの香りが強い。うまいです」
「だろ、もりそばを食べるときも、そうするんだよ」
19歳男子の隣でニコニコ笑う娘。
僕が大学1年生のころ、剣道部の先輩に教えてもらった作法。
先輩の実家は鮮魚を扱う仕出し屋だった。
その先輩とは、今も付き合いが続く。
こういう食の記憶って、いつまでも忘れないんだよな。
大学1年生のネスタも忘れずにいてくれるかな。
飲んで食べて、しゃべって、いつの間にか午後9時。
娘を間に挟み、3人で歩きながら帰った。
真ん中にいた娘がネスタと腕を組み、パパと腕を組んだ。
パパは、買ったばかりのiPhoneを自分たちに向けてシャッターを切った。
どちらさまも、うっかりクリック。