諸行無常
「大切な人を亡くした後、どう生きるか」を書くつもりで、亡き妻千恵のブログを引き継いだ。最初はずっと、悲しみに暮れていた。ブログの内容は暗かった。酒を飲みながら書いていた。飲まなければ書けなかった。あのときは、悲しみを吐露しながら、心のバランスを保っていたのだと思う。
だが、「諸行無常」という仏教の言葉があるように、あらゆる現象は変化してやまない。
シングルファーザーになり、子育てと仕事に没頭し、反抗期を迎えた娘と向き合い、体調を崩して何度も倒れ、会社を早期退職した後、夢だった映像製作の仕事を本格的にスタート。娘も就職が決まった。
悲しみを乗り越えることはできなかったけれど、悲しみを抱えながら、「生きる」を楽しむことが、少しずつできるようになった。
そんな中、突然、ある大学生が僕たち親子の前に現れた。
2022年9月24日。その大学生は、わが家を訪れると「はじめまして。天霧寧守太（あまぎり・ねすた）です」と名乗った。以来、彼と一緒に朝夕の食卓を囲むようになった。
変化があったのは、それだけではない。最近、ブログの内容も様変わりした。
妻が綴ったブログの振り返りは、すっかり、ご無沙汰（千恵、ごめんなさい）。
娘に関しては、写真掲載を嫌がるので難しい。自分の日常は、ニーズがない。
必然的に、ねすたの登場が増えていく。
これでは、まるで、「娘の彼氏の観察日記」ではないか。
ところが、コメント欄を読んでみて、救われたような気持ちになった。
「ねすた君、素敵」「彼氏、いい味出しているね」「親戚のおばちゃん気分」「素直でかわいい」「笑える」などと好意的な書き込みが多数。講演先でブログの読者に会うと「ねすた君、指の骨折は大丈夫ですか」と質問されるケースもある。
父と娘と娘の彼氏との3人暮らし。こんな日がくるとは思いもしなかった。
「大切な人を亡くした後、どう生きるか」をどこまで伝えられているか分からない。だが、「喪失からの再生」に、ねすたが一役買ってくれているのは間違いない。
妻が生きていれば、来月50歳。
この状況を、どう思っているだろうか。
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